第4話「しあわせプレス!ハピネスフラワーハンマーっす!」


ラブソウルステッキを手に入れたれいり。りじゃは羨ましかったのか、その話題を何度も持ち出しました。れいりやうるき以外の人がいる所でも話題に出すため、周りから奇怪な目で見られています。

「もう!いい加減にするっすよ!話すならせめてオレと部長だけの時にするっす!あと普通にしつこいっす!」

「だってだって僕も欲しいよ〜!」

「あれは焼き鳥に対するご褒美だったし、アルカに何か食わせればいいんじゃないんすか」

「よし!アルカちゃん!焼き鳥食べに行こ〜!」

「えぇ〜」

れいりの頭の上から声がしました。そしてのしかかる質量。幸い見た目通りの重さのようで首が折れることはありませんでしたが、れいりは頭上のアルカを掴んでりじゃに押し付けました。

「我、今は焼き鳥の気分じゃないな」

「えぇ〜!?焼き鳥おいしいのに!?」

「おいしくても毎日は飽きるっすよ」

「飽きないよ〜?」

「普通は飽きるんすよ」

「そんな〜……」

りじゃはがっくりと肩を落としてしまいました。そんなに焼き鳥食べたかったのか、という言葉をぐっと飲み込み、れいりは提案しました。

「商店街に新しくできたタピオカ屋とかどうっすか?」

返事と場所を聞く前にりじゃはれいりを掴んで走り出しました。まだ放課後ではないのでこれはサボりに含まれます。


いざ商店街に着くと、件のタピオカ屋には大行列ができていました。とはいえ客の回転が速いため、飽きっぽいりじゃでも我慢できる程度の行列でした。れいりとりじゃは並びます。アルカも黙ってぬいぐるみのフリをしてくれていました。


10分くらいで無事にタピオカドリンクを買うことができました。れいりはミルクティー、りじゃはバナナミルク、アルカの分は抹茶ミルクです。れいりとりじゃが飲み終わってからアルカに物陰で飲ませようと、近くのベンチでゆっくり飲んでいたところでした。タピオカ屋の周囲がざわつき始めたのです。ウツロンダーの可能性も考えてれいり達は注意深く騒ぎの中心を注視していました。


タピオカ屋に向かって歩いてきたのは女子高生。神座学園の制服です。その姿を見てりじゃが立ち上がります。

「きあちゃんだ〜!」

女子高生の正体はりじゃのクラスメイト、元瀬きあでした。


「あら、りじゃ。タピオカなんて興味あったのね」

「うん!れいりが誘ってくれたんだ〜」

「ふーん……あ」

きあはれいりの膝に乗っていたアルカへ目を向けました。

「へ?」

れいりが言葉を続けようとした瞬間、バタバタと複数人の足音が聞こえてきました。

「いたぞ!歩くシャッター街だ!」

「タピオカ屋!今のうちに逃げるんだ!」

「いやウチキッチンカーじゃないんで無理」

「やば」

きあは走り出し、あっという間にれいり達の視界から消えてしまいました。

「歩くシャッター街……?」

「きあちゃん食いしん坊だから食べ物屋さんを閉店に追い込みがちなんだよね」

「閉店に追い込むって胃袋の前にお金大丈夫なんすか」

「大食いの賞金で大食いしてるらしいよ」

りじゃの声ではありません。れいりは膝の上を見ました。アルカがいつの間にか抹茶ミルクタピオカを奪い、飲んでいます。れいりは慌てて鞄でアルカを隠しました。

「UMA研究者に見つかったら」

「2人とも、ウツロンダーの気配だよ」

アルカは真剣な表情で言うものの、直後にタピオカドリンクをずぞー、と飲みました。本当にウツロンダーが出現したのかれいりが疑うほどでした。しかし、万が一もあります。れいりとりじゃは頷き合い、アルカの案内する方向へ歩いていきました。


「キャハハ!この前の魔法少女だ!」

そこには以前ウツロンダーの傍にいた金髪の少女が立っていました。その後ろで黒い渦が渦巻いています。

「今日は緑のはいないんだ〜」

「全員カテゴリ的には緑なんで今も緑2人いるっすよ」

「……チビの緑はいないんだ〜」

「君の方が部長より小さくない?」

「うるさいなぁ!ファレナ小さいかもだけど強いもん!いでよ、ウツロンダー!」

ファレナと名乗った少女の声に合わせて、黒い渦がウツロンダーへと姿を変えます。

「ブルーミングジュエル!」

れいりとりじゃはすぐに変身します。


「ラブソウルウェーブ!」

れいりはラブソウルステッキで魔法を放ちます。しかしウツロンダーは耐えています。もう一押し欲しいところですが、りじゃの普通の魔法では足りないようです。

「んも〜!アルカちゃん!僕にも何かちょうだい!」

「待ってタピオカが氷に挟まって吸いきれない」

「いつまで飲んでるんすか!さすがに部長がいないのもあってオレ達が劣勢なんすよ!?」

「わかったわかった、ちょい待ち」

アルカからずぞー、という音が聞こえなくなった瞬間、りじゃの右手が光に包まれました。


「わ〜!!!!」

りじゃの右手にはハンマーが握られていました。

「それはハピネスフラワーハンマー。タピオカのお礼だよ」

「りじゃ、いけるっすか」

「もちろんだよ〜!」

りじゃは自身の身長ほどはある大きなハンマーを軽々振り回し、ウツロンダーへ突撃します。

「ハピネスフラワープレス!」

りじゃの一撃でウツロンダーはひび割れ、消えていきました。


「つっ、次はもっと強いもん!べーっ!」

ファレナは捨て台詞を吐いて逃げていきました。れいり達はそれを確認して変身解除しました。

「ファレナ……ちゃんでいいんすかね。あんな小さいのに……」

「ウツロ団で働かされてかわいそうってこと〜?」

「いや、自信過剰で相当周りに甘やかされてきたんだろうなって話っす」

「辛辣〜。それより僕のハピネスフラワーハンマーさ〜」

2人はいつの間にか傾きかけた太陽に照らされ、商店街を歩いて帰りました。


強い夕日の影から、何者かが2人を見ていました。